未払賃金立替払制度とは?会社が倒産しても未払い賃金の8割を受け取る方法
勤め先の会社が突然倒産し、給料が支払われないまま退職を余儀なくされたら、働いている労働者にとっては生活の基盤そのものが揺らぐことになります。
こうしたトラブルが起きたときに頼りになるのが「未払賃金立替払制度」です。この制度を利用すれば、未払賃金の一部を国に立替払いしてもらえます。
この記事では、未払賃金立替払制度で救済されるのはどのようなケースか、必要な条件や立替払いが認められる賃金の範囲・金額、具体的な申請の流れ、いざというときの相談先など、本制度の全体像について弁護士が専門家の立場から詳しく解説します。
目次
未払賃金立替払制度の目的・仕組み・対応機関
未払賃金立替払制度は、企業の倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を国が立替えて払う制度です。
立替払いを申請する窓口は裁判所ではなく、独立行政法人労働者健康安全機構(神奈川県川崎市)となります。同機構が賃金の一部を立替払いし、後日事業主等に請求します。
同機構には本制度を専門に取り扱う部署があり、来所または電話での相談を受け付けています(平日のみ)。代理人や家族など本人以外からの相談には原則として対応していないので注意しましょう。
また、最寄りの労働基準監督署でも本制度に関する問い合わせに対応しています。
対象となる事業主・労働者の要件
未払賃金立替払制度には、事業主と労働者それぞれの適用要件があるので確認しましょう。
事業主側の要件
事業主の主な要件は3つあります。
・労災保険の適用事業であること
・1年以上事業を実施していたこと
・法律上または事実上の倒産に該当すること
上記のうち「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の違いについて簡単に説明しておきます。
(法律上の倒産)
破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始など、裁判所の決定や命令が出ているケースです。大企業の倒産は多くがこちらに該当します。
(事実上の倒産)
特に中小企業の事業において、「事業活動が停止している」「再開の見込みがない」「賃金の支払能力がない」といった状態にある場合、労働基準監督署長の認定により事実上の倒産として扱われます。
いずれの場合でも要件を満たせば本制度を利用できますが、認定の方法や必要書類が若干異なります。
労災保険の適用事業であること
未払賃金立替払制度は、労災保険によって運営されています。そのため、労働者を1人以上雇用している事業であれば、原則として労災保険の適用があり、制度の対象となります。
少なくとも1年以上、事業を実施していたこと
短期間で設立・閉鎖した事業は対象となりません。継続的に事業活動を行ってきた実績が必要です。
法律上または事実上の倒産に該当すること
中小企業の事実上の倒産の場合は、事業活動の停止、再開見込みの欠如、賃金支払能力の欠如などについて、労働基準監督署に認定申請を行い、認定を受ける必要があります。
労働者側の要件
労働者側の条件は以下の3つです。
・所定期間内に退職していること
・未払い賃金があること
・所定期間内に立替払いを請求していること
所定期間内の退職
破産等の申立て、または事実上の倒産の認定申請の6か月前の日から2年のあいだに退職していることが求められます。
ただし、退職後6か月以内に裁判所への破産手続開始の申立てをするか、または労働基準監督署長への認定申請をしなかった場合は対象外となるので注意しましょう。

未払賃金が存在する
賃金が支払われないまま退職した労働者であり、未払賃金の額や期間について、破産管財人等または労働基準監督署長の確認や証明が得られることが必要です。
期限内の立替払い請求
破産手続開始等の決定または事実上の倒産認定の日の翌日から2年以内に立替払いの請求を行うことが必要です。この期限を過ぎると原則として制度を利用できなくなります。

アルバイトも「労働者」に含まれれば立替払いを請求できる
アルバイトであっても雇用契約に基づき使用されていた労働者であれば本制度の対象になります。
ただし、個人事業主的な立場や業務委託契約、請負契約によって働いていた場合などは、そもそも「労働者」に当たるかどうかが問題になります。
アルバイトでも未払賃金立替制度を利用できるか判断が難しい場合は、弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談するとよいでしょう。
立替払いの対象となる未払賃金と金額
ここでは本制度の対象となる賃金の範囲と金額について整理します。
対象となる賃金の範囲
立替払いの対象となる未払賃金は、次のように整理できます。
対象期間
退職日の6か月前から、立替払い請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金が対象です。
対象となる賃金
定期的に支払われる賃金(基本給・時間外手当等)および一定の退職金が含まれます。
対象外の賃金
ボーナス、総額が2万円未満の未払賃金、交通費、結婚祝い金などの臨時に支給される金銭は対象外となります。
対象となる金額
立替払いされる金額は、原則として「未払賃金総額の8割」です。ただし、退職時の年齢に応じて上限額が定められており、それを超える部分は対象になりません。
退職日における年齢ごとの限度額および上限額は以下の通りです。
45歳以上の場合
未払賃金総額の限度額:370万円
立替払いの上限額:296万円(370万円×0.8)
30歳以上45歳未満の場合
限度額:220万円
上限額:176万円(220万円×0.8)
30歳未満の場合
限度額:110万円
上限額:88万円(110万円×0.8)
例えば、退職時35歳で未払賃金総額が200万円だった場合、限度額以下ですので未払賃金総額が対象となります。実際に立替払いされる金額は8割の160万円です。
退職時46歳で未払賃金総額が400万円だった場合は、限度額を超えています。そのため対象となる賃金は限度額である370万円です。実際に立替払いされる金額は8割の296万円となります。
なお、未払賃金総額の残りの2割については、会社に対する権利が失われるわけではありません。したがって破産手続などの際に請求することは可能です。ただし、倒産した会社には賃金の支払いに回せる資金がないため、未払賃金の残額が支払われる可能性はかなり低くなります。
申請の流れと必要な資料
未払賃金立替払制度を申請する際の大まか流れと必要な資料について解説します。
申請の流れ
本制度を利用する場合、手続きの流れは以下のようになります。
1. 会社の倒産状況の確認
法律上の倒産か、事実上の倒産かを確認します。事実上の倒産と考えられる中小企業の事業主の場合、労働基準監督署長への認定申請が必要です。
2. 労働基準監督署で未払賃金額等の確認
退職日、未払賃金の金額や種類などについて、監督署で確認や証明を受けます。
3. 労働者健康安全機構への立替払請求
労働基準監督署で発行された証明書などを添えて、労働者健康安全機構に立替払請求書を提出します。
4. 審査・支払
機構での審査を経て、問題がなければ指定口座に立替払金が振り込まれます。請求から振込みまでにかかる期間は、30日くらいが目安です。ただし書類の不備があると、その分振り込みが遅れてしまうこともあるので注意が必要です。
事前に準備しておきたい資料
手続きの前に、次のような資料をできる限り集めておくと、後の手間が減ります。
・給与明細や賃金台帳のコピー
・雇用契約書や就業規則
・タイムカードやシフト表
・賃金が支払われなかったことが分かる通帳の記録
これらの資料は、未払賃金の内容や範囲を確認するうえで重要です。
このほかにも、メールやLINEで会社側とやりとりしたメッセージなど、賃金の未払いに関係しそうな資料は漏れなく確保しておくとよいでしょう。
本制度の利用上の注意点
未払賃金立替払制度を利用する際、よく問題になるのは以下のようなケースです。
・未払賃金の金額や期間がはっきりしない(資料不足)
・自分が本当に「労働者」に当たるのか微妙(業務委託契約等)
・会社が「倒産」と認められるのか曖昧(事実上の倒産かどうか)
・賃金は分割で支払われるはずなどと言われ、退職時点で未払がどこまでか争いがある
このような場合、パンフレットやネット上に書いてある制度の説明を読むだけでは判断が難しくなります。自己判断は避けて、しかるべき窓口に相談しましょう。
どこに相談すべきか
本制度の内容や申請の可否について悩んでいるときは、まずは公的機関に相談したほうが安全です。
・最寄りの労働基準監督署(未払賃金や倒産状況の確認)
・労働局等の総合労働相談コーナー
・労働者健康安全機構の未払賃金立替払相談コーナー
複雑な事案では弁護士などの法律専門家を活用する
「未払賃金の額が大きい」「会社の倒産形態が複雑で、他の事業や資産状況も絡む」などの複雑なケースでは、弁護士のような法律のプロに相談した方が早く適切に解決する場合もあります。
労働審判や訴訟、破産手続等との関係も含めて問題を整理してもらうと、全体像が見えて解決の道筋が立てやすくなります。
知っておきたい制度活用のポイント
最後に、未払賃金立替払制度を効果的に活用するためのポイントを紹介します。
早期の情報収集が何よりも重要
会社の経営状況が悪化し始めたことを察知したら、すぐに情報収集に着手してください。特に給与明細や契約書などの証拠書類は、紛失してしまうと後日入手することは難しいので要注意です。未払いの状況を確認できる通帳の記録や、会社側とのやりとり(メールやLINEなど)はこまめに保存しておきましょう。
また、労働基準監督署長による「事実上の倒産の認定」には一定の時間がかかるため、早い段階で動き始めないと本制度の利用期限が切れるリスクがあります。会社が事実上の倒産に該当する可能性がある場合、労働基準監督署への相談は早めに行いましょう。
他の制度との併用も検討
企業が倒産した場合、未払賃金立替払制度以外にも労働者を保護する仕組みがあります。たとえば雇用保険の失業給付は、倒産による離職の場合、特定受給資格者として給付日数が優遇される場合があります。
また、労働債権は破産手続において優先的な扱いを受けることも知っておくとよいでしょう。破産管財人が選任されている場合は、管財人に対して債権届出を行うことで配当を受けられる可能性があります。ただし、銀行の担保のほうが優先されるため、満足できる配当が受けられるとはかぎりません。
退職のタイミングの判断
前述したように、未払賃金立替払制度の利用を考えるなら、倒産の6か月前から2年のあいだに退職していることが条件となります。しかし、倒産がいつ起こるかは予測が困難です。業績が悪化している会社に留まり続けるべきか、それとも早めに退職すべきかの判断は難しいところでしょう。
肝心なのは、自身の将来のキャリアや生活設計も含めて総合的に判断することです。退職のタイミングについて迷った場合は、弁護士などの専門家の助言を求めることも検討するとよいでしょう。
まとめ
未払賃金立替払制度は、倒産した会社から賃金が支払われないまま退職した労働者を救済するための仕組みです。
しかし、「会社に恩義があるから」などと我慢して退職を先延ばしにすると、制度自体が使えなくなるおそれがあります。未払賃金が発生し、このままだと賃金が支払われないのではと感じた時点で、早めに状況を整理し、公的機関への相談を検討したほうが安全です。
ご自分で判断するのが難しい場合や公的機関への相談だけでは不安が残る場合は、都総合法律事務所へお気軽にご連絡ください。会社の破産問題や賃金未払いのトラブルに詳しい弁護士が適切な解決策を提案いたします。
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